第40話 屋上の再会
僕と平石は船橋たちレジスタンスの一団に加わり、ようやく屋上へたどり着いた。
屋上には、凛々子が立っていた。
右手には、ひどくねじ曲がった金属バットを握っている。
足元には、おびただしい数のドローンの残骸が散乱していた。
凛々子は僕たちを見ると、目を見開いた。
「あなたたち! 生きてたの?」
僕と平石のところへ駆け寄ってきた。
「もちろん、生きていたさ。河口さんの活躍も見てたよ。ドローンのカメラ映像が、下のモニターに映ってたんだ」
僕は口話で話しながら、周囲のろう者にも伝わるように手話を添えた。
〈でも、よく一人で乗り込んだな。見てるこっちがハラハラしたよ〉
凛々子は僕の顔を見て、手を動かした。
〈あなたたちは、どうやってここまで来たの?〉
〈最初は二人だけだった。ついさっき、船橋さんたちと合流したんだ〉
僕は船橋に目を向けた。
船橋は凛々子に笑いかけた。
〈お疲れさま。しかしまあ、よくやったもんだ〉
屋上に散乱するドローンの残骸を見回した。
凛々子はろう者のメンバーたちに頭を下げ、それから船橋に訊ねた。
〈船橋さん、あの爆発で吹き飛ばされたと思ってた〉
船橋の表情が曇った。
〈加田崎さんが助けてくれたんだ。爆発する直前、俺を突き飛ばした〉
凛々子の手が止まった。
〈加田崎さんは?〉
〈噴煙の中を探した。かなり離れた壁の向こうまで飛ばされていた。見つけた時には、もう呼吸が止まっていたよ〉
凛々子はうつむいた。
〈そう……亡くなったのね〉
しばらく誰も手を動かさなかった。
やがて凛々子が空を見上げた。
〈ところで、ドローンはどうなったの? もっとたくさんあったと思うんだけど〉
僕が答えた。
〈ここにあった三分の一くらいは、あなたが叩き壊した〉
足元の残骸を指差した。
〈残りは別の場所へ移動した。やっぱりドローンを操っていたのはエイリアンだった。だけど、奴らはこのビルから逃げた〉
〈どこへ?〉
今度は船橋が答えた。
〈隣町の屋根付き球場だ。そこへ向かっているという情報が入った〉
〈屋根付き球場?〉
〈そこには、こことは比較にならない数のドローンが格納されているらしい〉
僕と平石は顔を見合わせた。
〈まだ、そんなにあるのか?〉
平石が訊ねた。
僕も船橋に訊いた。
〈その情報、どうやって知ったんです?〉
〈奴らと、それに協力している人間たちの通信を傍受した〉
船橋はそこで一度言葉を切った。
〈たぶん、次が最後の抗戦になる〉
集団の空気が変わった。
平石が一歩前へ出た。
〈最後の抗戦?〉
〈ああ。奴らはあそこに残っているドローンを、一斉に飛ばすつもりらしい。ここだけじゃない。もっと広い地域へ展開するつもりだ〉
誰も手を動かさなかった。
船橋は続けた。
〈あれだけの数が飛び立てば、もう俺たちだけじゃ止められない。警察も自衛隊も奴らの側だ。今のうちに格納場所を潰すしかない〉
凛々子が訊ねた。
〈どうするんですか?〉
〈屋根付き球場へ行く。ドローンを破壊する。それしかない〉
船橋は激しい手話で言い切った。
しばらく重い沈黙が続いた。
やがて凛々子が口を開いた。
「分かりました」
そして周囲のろう者たちに向かって手を動かした。
〈では、行きましょう〉
もちろん、僕と平石も同行するつもりだった。
一行は非常階段へ向かって歩き始めた。
その途中、凛々子が船橋の隣へ寄った。
「でも、困ったわ」
珍しく小声の口話だった。
「何ですか?」
「もうバットがボロボロなの」
凛々子は、ねじ曲がった金属バットを見せた。
船橋は呆れたようにそれを見た。
「今度は、そんな金属バットじゃ全然歯が立ちませんよ」
「でも、こんなのしか使ったことがないわ」
鈍器で殴るのが得意な人だからなあ。
「もっと威力があって、使いやすい武器がバスの中に山ほどあります」
船橋はそう言って皆を手招きし、階下へと誘導していった。
僕もその後を歩いた。
だが、少しだけ浮かない顔をしていた。
河口凛々子の目が届かないところまで来たところで、僕は平石の袖を引いた。
〈ちょっと相談があるんだけど〉
つづく
